新種化石、標本より先に食材デビュー 論文より早いふるさと納税

化石より先に鍋が沸いた。過疎に悩む町で見つかった新種の骨が、学会発表前から「太古の旨み鍋」のロゴに採用され、商店街には化石型コロッケが山積みになった。調査チームが標本を求めると、役場は「すみません、ふるさと納税の先着特典で完売しました」と謝罪し、論文の図版には通販サイトの写真が使われる見通しだ。

新種化石、標本より先に食材デビュー 論文より早いふるさと納税

化石より先に鍋が沸いた。過疎に悩む町で見つかった新種の骨が、学会発表前から「太古の旨み鍋」のロゴに採用され、商店街には化石型コロッケが山積みになった。調査チームが標本を求めると、役場は「すみません、ふるさと納税の先着特典で完売しました」と謝罪し、論文の図版には通販サイトの写真が使われる見通しだ。

山あいの小さな町、鍋谷町(架空、人口約6000人)で見つかったのは、全長およそ二メートルとみられる小型恐竜の部分骨格だ。畑の拡張工事中にショベルカーが骨を引っかけ、現場作業員が「なんかうまそうな骨が出た」と役場に届けたのが始まりだという。県立博物館が「新種の可能性が高い」と一次鑑定したその瞬間から、学術的価値と経済的価値は、きれいに真っ二つに割れた。

町の地方創生担当部署は、博物館からの正式文書が届く前に「ブランド会議」を招集した。会議録によれば、検討された名称案は「令和竜鍋」「骨まで味わうプロジェクト」などで、最終的に採択されたのが「太古の旨み鍋」だ。発見された骨のシルエットは即日スキャンされ、ロゴマークとして商標出願された。まだ学名すら付いていないが、パッケージ上ではすでに「ナベタニサウルス」としてデビューしている。

商店街では決定の翌週から、化石型コロッケの販売が始まった。パン粉でごつごつした化石表面を再現し、中身は地元産イモとミンチ肉。「学術的にはただの揚げ物だが、地方財政には化石級のインパクトだ」と、惣菜店主は胸を張る。目玉商品は、ふるさと納税の返礼品に設定された冷凍セットで、箱には「謎の骨付き具材入り」とだけ書かれている。博物館の学芸員は「レプリカだと信じたい」と話すが、誰も製造工程を直視しようとしない。

標本確保に乗り出した大学の調査チームが役場を訪れたのは、そのブームが一段落しかけたころだ。保管庫の棚には、空になった発泡スチロール箱と「出荷済」と書かれたメモだけが残されていた。町職員は「学術標本用と返礼品用を分ける予算がなくてですね」と苦笑いし、「でも全国の冷凍庫に大切に保管されていますから、分散型博物館と考えていただければ」と、時代の先端を走っているのか道を誤っているのか分からない説明をした。

追い詰められた研究者たちは、通販サイトのサムネイル画像と、納税者たちの「開封の儀」投稿を分析し始めた。レビュー欄には「骨が思ったより小さかった」「子どもが怖がって泣いたので星2」など、国際学会誌の査読者も顔負けの観察記録が並ぶ。調査チームは「市民科学の新しい形」と前向きに評価しつつも、「星いくつで系統樹が変わるのか、統計処理が追いつかない」と悲鳴を上げている。

町は攻勢の手を緩めない。新たに誕生したゆるキャラ「ナベタニくん」は、頭が土鍋、体が骨格標本という強烈な造形で、週末ごとに子どもたちと写真撮影に励む。学会側がロゴやキャラクターの利用許諾を求めると、観光協会は「商標管理は大変繊細でして、有料プランなら検討できます」とビジネスライクに応じた。いつのまにか、化石そのものより、化石の二次利用権のほうが貴重になっている。

文化庁と文科省は、事態を「前例のない学術資源の地域還元」と評価するのか、「骨までしゃぶる地方創生」と問題視するのか、判断を迫られている。担当者は「今後は発見時点で『食用禁止』と朱書きするガイドラインを検討したい」と話すが、地方側からは「化石より先に予算が絶滅する」と早くも反発の声が上がる。太古の生き物の運命を決めるのは、地殻変動ではなく、ふるさと納税の締切日になりつつある。

論文より先に鍋が全国配送される時代、学問の進歩と地域の台所はどう折り合いをつけるのか。「煮て応援か、残して研究か」。ナベタニサウルスの骨は、最後の一片まで問いかけ続ける。解凍されるのが先か、学名が付くのが先かは、今のところ統計的有意差は出ていない。

関係者のコメント

  • 鍋谷町長「化石はロマンですが、財源もまたロマンです。両方追った結果がこれですな」
  • 大学調査チームの古生物学者「標本写真が全部『お客様の投稿画像』になる論文は、世界初かもしれません」
  • 商店街の惣菜店主「うちは難しいこと分からんけど、揚げたらだいたいおいしいいうデータは持ってます」
  • ふるさと納税で骨セットを受け取った都内会社員「冷凍庫を開けるたびに『学術的にすまない』気持ちになりますが、鍋には入れます」
  • ゆるキャラ・ナベタニくん「ボクの肖像権使用は有料です。でも子どもの握手は無料です」
  • ナベタニサウルスの骨「数千万年土の中で寝てたら、起きた瞬間ネット通販とは思いませんでした」
  • 観光協会職員「標本は一点ものですが、グッズは量産できます。どちらを選ぶかは、だいたい予算書が教えてくれます」
  • 県立博物館学芸員「発見報告書に『返礼品として流通』と書いたのは生涯最初で最後にしたい」
  • 地元中学校理科部員「自由研究の題名は『恐竜はなぜ鍋になったのか』に決めました」
  • 鍋の出汁「初めて自分が論文の図版候補と言われました。うま味と学問、両方出していきたいです」

国際表現

俳句

  • 太古鍋 骨まで地方を 支えけり
  • 新種骨 まずはロゴから 名を名乗り
  • 学名は まだ無きままに 沸く土鍋
  • 標本よ 戻れと叫ぶ 返品窓口
  • 星三つで 進化系統 揺れ動く
  • ふるさとや 冷凍庫まで 博物館
  • 論文より 先に届いた クール便
  • 恐竜も プレスリリース 無き眠り
  • 骨コロッケ かじれば遠い 白亜紀へ
  • 旨み鍋 科学と予算を 煮詰め合う

漢字

化石発見新種骨過疎町地方創生食材化学会前鍋商品商店街化石型食品山積調査隊標本不足返礼品完売論文図通販写真使用予定

絵文字

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SNS

  • #太古の旨み鍋 届いたけどこれ本当に大丈夫なやつなのか #学術的においしい
  • 「標本完売しました」はさすがに聞いたことないフレーズだな #地方創生
  • レビュー欄で恐竜のサイズ議論始まってて笑う #市民科学
  • ナベタニくん、頭が土鍋で体が骨って攻めすぎデザイン #ゆるキャラ
  • 研究費よりふるさと納税額のほうが多いって完全に時代を感じる
  • 通販サイトのスクショが論文図版候補らしい #オープンアクセス
  • 冷凍庫の中に新種いて震えてる #うちがタイプ標本説
  • 「食べて応援」がついに「食べて絶滅史を書き換える」に進化
  • 骨コロッケ買ったら説明書に系統樹付けてほしい #恐竜
  • 次は「化石発掘権NFT」とか出そうでこわい #科学とビジネス